ドレイファスモデルにおけるスキルの習熟段階
こんにちわ。組織開発がミッションの人事グループ・組織開発室に所属しているてぃーびーです。
仕事における専門職のスキルの習熟を考えるにあたって、ドレイファスモデルの習熟段階と照らし合わせて整理してみます。
ドレイファスモデルにおけるスキルの習熟段階
ドレイファスモデルとは、学習者がどのような指導・実践を通してスキルを習得するかを表したモデルです。
エンジニアの技能レベルが起源ですが、Clinical Ladderとして看護領域でも活用されてきたモデルです。
ドレイファスモデルではスキルの習熟段階を5段階に分けています。
- 初心者
- 初級者
- 中堅
- 熟練者
- 達人
なお、この図の各段階の横幅は概ねそのまま各段階の人数比になっています。
初級者が最も多く、中堅が次点となっています。
初心者 - Novice
初心者は対象領域の経験がほとんどないような人です。
経験がないため、手順などが明示されていないと成果を出すことが難しくなります。
逆に手順でカバーしきれない範囲については、学習・経験の繰り返しによって少しずつ自分で判断できる対象を増やしていくことになります。こういった成長のサポートのため、常に周囲からの支援が必要になります。
割り振られた担当タスクの範囲が主な視野になります。
初級者 - Advanced Beginner
初級者は手順に沿って行うような対象は一通り身につけ、ある程度手順を離れた動きもできるような人です。
初心者と比べて1人でできる範囲が広がっているのものの、まだ周囲の支援を必要とする場合もあります。
担当者として一通りの業務を遂行できるように、少しずつ担当できる範囲を広げていく段階です。
初心者と同様に割り振られた担当タスクの範囲が主な視野になります。
中堅 - Competence
中堅は一般的な担当者として周囲の支援がなくても一通りの業務を担当できるような人です。
また、
- 担当領域に関わる問題を解決できる
- 臨機応変に対応できる
- 初心者、初級者の指導ができる
などの特徴を持ちます。
担当業務全域が主な視野になります。
熟練者 - Proficient
熟練者は熟練した技術者として、より広い範囲、より難しい業務を担当できるような人です。
また、
- 任意の領域全体に関わる難しい問題を解決できる
- 経験に基づく優れた洞察を持つ
- 専門領域に関して関係者を巻き込み、目的を達成できる
などの特徴を持ちます。
達人 - Expert
達人はその領域においてトップクラスの存在であり、情報源となるような人です。
また、
- 直感で適切な対応ができる
- 任意の領域全体に関わる非常に難しい問題を解決できる
- 専門領域に関して関係者の中心になり、方針・戦略レベルの判断ができる
などの特徴を持ちます。
等級制度とドレイファスモデル
人事評価制度として等級制度でグレードを定めている場合、ドレイファスモデルとの対比できるような階段が設定されていることがありがちです。
例えば、
- グレード1 - 初心者
- グレード2 - 初級者
- グレード3 - 中堅
- グレード4 - 熟練者 / ジュニアマネージャー
- グレード5 - 熟練者〜達人 / グループマネージャー
- グレード6 - 達人 / 部門長
のような形です。
(対比としてマネジメントキャリアの役割を併記)
習熟段階の例
ChatGPTを用いて、ドレイファスモデルに当てはめた段階を生成してみました。
割りとそれっぽい内容になっていたので、ここで挙げた以外の職種の方は自分の職種に関してChatGPTで内容を生成してみてください。実際には自分の所属組織、職種の前提を踏まえた内容を整備する必要がありますが、その議論の土台として活用するのにちょうどよさそうです。
開発者
初心者
- 特徴: 基本的な構文やルールを学び始めた段階
- 行動: サンプルコードを模倣し、基本的なプログラムを理解
初級者
- 特徴: 経験に基づいた基本的なプログラミングができるが、まだ慣れていない段階
- 行動: 少し複雑な問題にも取り組み、慣れ親しんだパターンに頼る
中堅
- 特徴: 一般的なプログラムの構造やデザインに理解があり、単純な問題を解決できる段階
- 行動: 標準的な開発手法やデザインパターンを適用し、単純なアプリケーションを開発
熟練者
- 特徴: 複雑な問題にも対処でき、プロジェクト全体を理解
- 行動: 経験に基づいた意思決定や最適化、他のチームメンバーのサポート
達人
- 特徴: 業界全体にわたる知識と深い理解を持つトップクラスのエンジニア
- 行動: 高度な問題の解決、アーキテクチャの設計、他のエンジニアへの指導
採用担当者
初心者
- 特徴: 採用の基本的なプロセスや手続きに慣れていない
- 行動: テンプレートや既存のプロセスに基づいて、採用手続きを進める
初級者
- 特徴: 一般的なポジションの要件に理解があり、基本的な面接ができる段階
- 行動: 職務経歴書やスキルセットを理解し、基本的な面接質問に対応
中堅
- 特徴: 複雑なポジションやチーム構成に対処でき、選考の戦略を検討できる段階
- 行動: 職務経歴書やポートフォリオの詳細な分析、候補者との対話で深い理解を得る
熟練者
- 特徴: 複数のポジションやプロジェクトの同時進行が可能で、候補者の強みや弱みを的確に判断できる段階
- 行動: カルチャーフィットやチームダイナミクスを考慮して、長期的な成功に焦点を当てた採用を行う
達人
- 特徴: 産業全体にわたるトレンドや効果的なリクルーティングのベストプラクティスに深い理解があり、革新的なアプローチを展開できる段階
- 行動: 業界の動向を把握し、候補者の市場価値や将来のポテンシャルを的確に評価
営業担当者
初心者
- 特徴: 営業の基本的な手続きや基礎的な商品知識に慣れていない
- 行動: 簡単な商品やサービスの説明ができるが、深い理解が不足している
初級者
- 特徴: 基本的な商談やクロージングのスキルがあり、一般的なお客様に対して取引ができる段階
- 行動: 簡単なセールストークや基本的な顧客ニーズの理解ができる
中堅
- 特徴: 複雑な商談やクライアントのニーズに対処でき、競合他社との比較ができる段階
- 行動: 顧客のビジネス課題を理解し、独自の提案を行う
熟練者
- 特徴: 複数のクライアントやプロジェクトの同時進行が可能で、長期的なビジネスパートナーシップを築ける段階
- 行動: カスタマイズされたソリューションや戦略的な提案を行い、クライアントとの強固な関係を構築
達人
- 特徴: 産業や市場全体にわたる知識があり、業界の動向や新たなビジネス機会を見抜ける段階
- 行動: マーケットの変化に柔軟に対応し、革新的なセールス戦略を展開する
習熟段階とキャリアラダーの言語化
上記のような職種別の習熟段階を整理することで、キャリアラダーを整備する土台にすることができます。
また、その内容があると評価や育成の内容を明確にしやすくなります。
逆に、こういった段階が無いと、育成する側もされる側も何を期待するのか、されているのかが曖昧になります。
例えば、熟練者・達人からみれば中堅・初級者・初心者はどれも「発展途上な人材」「ジュニア」として一括りに見えるかもしれません。一方で、中堅に求める業務上の期待や、そのために必要となる育成内容と初心者に業務上の期待や、そのために必要となる育成内容は異なります。結果として、中堅以下に対してすべて中堅向け相当の育成をしていたら、たまたま際立って優秀だった初級者・初心者以外はついてくることができません。
まとめ
仕事におけるスキルの習熟を考えるにあたって、ドレイファスモデルの習熟段階と照らし合わせて整理しました。
成長の段階を把握することは、メンバーのキャリア・成長・評価全般に関わる要素です。
部門・チームのマネジメントに関わっている場合、自分たちの仕事における成長の段階について整理してみるとよいでしょう。
関連書籍
ドレイファスモデルについては、書籍「リファクタリング・ウェットウェア」に掲載されています。
関連情報
- Dreyfus model of skill acquisition - Wikipedia
- キャリアパスの整備 – 水平キャリアラダー | DevelopersIO
- キャリアパスの整備 – デュアルキャリアラダー | DevelopersIO